塗り絵をめぐる冒険

いち美術ファンによる、「目指せ、塗り絵上手!」な試行錯誤あれこれ。

【夏のレビュー企画】『海の楽園』、あるいは塗り絵界の琳派。

 こんばんは(*^^*)

 今回は夏のレビュー企画の続きで、ジョハンナ・バスフォード『海の楽園』を取り上げてみたいと思います。

 変な副題が付いていますが、あまり気にせず、いつも通りに基本的な事から見ていきましょう(^o^)/

 

■基本的なこと

 

『海の楽園 不思議いっぱいのぬりえブック』

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原題:"Lost Ocean"

著者:Johanna Basford

日本語版発行日:2015年10月25日

発行元:グラフィック社

文・翻訳:西本かおる

 

 私の手元にあるのは2016年6月に刷られた、初版第10刷のものです。

  世に出てから1年足らずで10刷!破壊的な需要があったのが察せられますね。

 なお、著者の先行作『ひみつの花園』『ねむれる森』にはアーティスト・セレクション版もありますが、本書にはありません(残念…ヽ(;´ω`)ノ)。

 

◇特色◇

・両面印刷 

・インデックスあり

・塗り方ガイドなし

・付録:大判ポスター型ぬりえ(両面印刷)

・作品数:53

・ジャンル:風景画系・模様系

 

■出会いと付き合い

 「バスフォード女史の本を1冊塗ってみたい!」と思い立ち、書店で買いました。

 同じ著者の本が何冊も出ている中で本書を選んだ理由は、4点ありました:

①海と帆船が好き

②線画に文字が入っていない

③独自性と完成度があり、美しい

④苦手な生き物がアップになっている線画がほとんどない

 

 説明が必要なのは②④でしょうか。

 まず②は、風雅の偏屈なこだわりです。

 風雅は『絵というものは言葉を使わずに何かを表現する点に一つの意義がある』と考えています。文字無しで状況を描き出すことこそ画家の腕の見せどころと信じている為、線画の中に文字が入ると、描き手が表現力不足を認めて白旗揚げたように感じるのです(^^;

 一方、④については嗜好の問題ですね。

 風雅がビシュアル的に「無理~💦」と感じる生き物とは、虫・両棲類・爬虫類の殆ど。この種の生き物に焦点を当てた線画が多数含まれていると、他のページが素敵でも買う気が減退します(本書では、海ヘビのページが「キツいな」と感じる程度で済みました)。

 これに①③の理由もあって、迷わず選んだ『海の楽園』ですが、自宅で開いた時最初に感じたのは、

「生命感ありすぎて怖い((( ;゚Д゚)))💦」 

という畏怖でした。

 その第一印象ゆえか、本書を塗る時は今でもシャキーン(`・ω・´)と背筋が伸びる気がします。

 その為、自然と『ページ毎にテーマを決め、時間と手間を惜しまず、真剣に塗る』という方針が定まりました。水彩色鉛筆と相性がいい本なので、主に水彩色鉛筆の修行の場となっています。

 風雅にとっては半年経っても「手ごわい」と感じる程なのですが、1冊塗り終わった時に水彩色鉛筆の技術が上がっている事を夢見つつ、塗り続けています。

 

■ズバリ、どんな塗り絵か

 本書では、珊瑚礁を中心にした海中風景と海絡みのモチーフが描かれています。

 線の色は黒。

 輪廓線は滑らかで概ね明瞭ですが、1枚の線画に0~2ヶ所位の割合で、対象物の前後関係や構造が曖昧な部分が現れます。

 陰影や質感を表す線や点は、程々に入っています。

 

 独特の画風なので、まずは塗りかけページの画像をご覧ください↓


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   画像では伝わりにくいかもしれませんが、大型本のサイズでこの線画を見ると、ゾッとする程の迫力があります。特に未着色だと、その印象が強く感じられます。

 本書には、明確な物語はありません。

 主役と呼べる登場人物もいません。

 その代わり、珊瑚、海藻類、魚、亀といったモチーフが、大きさを変え、構図を変えて、繰り返し繰り返し描かれています。

 生き物のモチーフについては、「もっと種類があってもいいのに」と思う位で、やや物足りません。シャチとダイオウイカという2大アイドルが両方とも出て来なくて、個人的には残念至極でした(^^;

 著者の画風に話を戻すと、頻出するモチーフが高度に様式化されているのが、本書の大きな特徴です。

 天地のある"絵"でも、マンダラ・対称形等の模様でも、モチーフの形状を変形せずに描いていますので、線画の形式が異なっても、同じ世界を描いていることが分かるのです。

 『ひみつの花園』等著者の他の作品も同じ原理で構成されているのだと思いますが、海をテーマに実行したという点が本書のスゴいところでしょう。

 海のモチーフの大々的な様式化を行った例は草花に比べて少ないので、1冊の画集を描き上げるには、『ひみつの花園』以上の労力と創造性を要したと考えられます。

 この種の、『一部モチーフの様式化によって洗練された作品を送り出す』ことに成功した偉大な芸術家と言えば、真っ先に尾形光琳の名が浮かびます。有名な『紅白梅図屏風』(MOA美術館)のど真ん中を占める、大胆な流水の表現が好例ですね~。

 閑話休題

 ともかく、ここまでの要旨は「バスフォード女史は、海中の世界を表現する"バスフォード様式"を確立させ、一冊通してそれを貫いている」ということです。

 1冊の本という観点から言い直せば、本書は『珊瑚礁の海を舞台にした、バスフォード様式の線画集』という印象を受けます。単純に海絡みの線画を寄せ集めるのではなく、1つの様式を53点に亘って貫いている為、読者は作品世界に引き込まれるのでしょう。

 この、「自分の世界に引き込める」度合いこそが完成度というものだと風雅は考えていますが、その点では著者の画力だけでなく、構成上の工夫もなされています。

 それが、"海賊の落とし物"。

 本書の多くの線画に、海賊の持ち物や財宝がそっと散りばめられています。

「海で海賊で財宝なんて、ベタ過ぎぃ!」とも思うのですが、見つけるとちょっと楽しくなるのも事実(^^; そのページを軽く攻略した気分が味わえるからかと思います(塗った時には更に深い満足感が味わえます)。

 この工夫に気づいた時は、あまりの周到さに唸らされました。作者も編集者も、いい仕事をしてくれましたね、と。

 

 願わくは、日本語版の印刷所にもいい仕事をして欲しかったのですが…。

 随所でインク移りしています(;>_<;)

 未着手のページにうっすらと付いた、隣ページのインクの痕は、素敵な本だと思っているだけに、かなりガックリきます。

 消しゴムで消せるとはいえ、「塗ってから時間が経つとまた移ってしまうのではないか?」と不安が残るのも事実。塗った後にインクが付着すると、打つ手がなさそうで💦💦

 塗り絵本ではインク移りが致命的な欠点となる以上、日本語版の版元と印刷所はもう少し神経を研ぎ澄まして欲しかった……と思わざるを得ません。

 

 気を取り直して、画材との相性についても触れておきましょう。

 油性色鉛筆、カラーペン、水彩毛筆については、どれもストレスなく塗れました。

 水彩色鉛筆も、普通程度の量の水を使う分には、大きな問題もなく使えています(ただし、多少の紙の歪みは残ります)。

 割とよく水を吸う紙、という印象でした。

 

 なお、本書にどういう塗り方が合うのかは、未だよく分かっていません。

 線画がよく出来ている為、どういう塗り方をしてもそれなりに形になりそうですが……線画の魅力を塗りで増幅するには、工夫と手間を要する気がします。

 "○色縛り"等の、テーマに振り切れた塗り方をしても合うのではないかという予感があるので、いずれ試してみたいものです(*^^*)

 

■着色例

 風雅が塗ったページを何点か載せています↓

 

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画材:水彩色鉛筆。

 

 以下は本ブログで既にごお目にかけているものを再録しました。


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画材:水彩色鉛筆。

 


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画材:水彩色鉛筆。

 

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画材:水彩色鉛筆。

 直上の2点は隣り合わせのページ同士で、フレーム部分が同じデザインです。

 風雅は別々の作品として塗りましたが、一対と捉えて同時に塗るのも面白そうですね。

 

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画材:サインペン、ボールペン(銀色)、水彩毛筆。

 

■終わりに

 締めくくりの感想コーナーです。

 

好きか★★★★★★★★☆☆

良いか★★★★★★★★☆☆

使い勝手★★★★★☆☆☆☆☆

達成感★★★★★★★★☆☆

推奨度★★★★★★☆☆☆☆

 

 こんなに長文のレビューを書いておきながら、オススメ度が6つに留まるのは、インク移り以上に線画の迫力のせいです(笑)

 本書は、映画に例えれば、名画の系譜に属するものです。多少の取っ付きにくさは否めませんし、時間もかかりますので、可愛くて手軽に塗れる本をお求めの方には不向きだと思われます。

 

 それにしても、今回のレビューは長くなりました。なるべく明解な言葉使いを心がけたつもりですが、読みにくいところがあったらご寛恕ください。

 ここまでおつきあい頂き、ありがとうございました。次のレビューも素人なりに真剣に書きますので、よかったらまた読みに来てやって下さい(*^^*)

 それでは、今回はこのあたりで(*^ー^)ノ