塗り絵をめぐる冒険

いち美術ファンによる、「目指せ、塗り絵上手!」な試行錯誤あれこれ。まったり気ままな塗り絵ブログ。

【雑談】KIMONO展。

 こんばんは〜、風雅です(^^)。

 7/3(金)、東京国立博物館(以下「東博」)でKIMONO展を母と2人で観てきました!

 実に半年ぶりの企画展となります。

 本記事ではこの美術展のことを書きます。

 

■開催の告知から入場まで

 昨年秋の段階で本展の開催は下のようなチラシで告知されておりました。

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 当初の開催時期は4月から6月の予定だったのです。

 しかし悪疫の流行で延期された末、6/30より事前予約制で開催される運びとなりました。

 私達の予約は11:30入場でした。

 博物館の入り口で検温を経て敷地内に入りました。

 入場予定時刻まで少しゆとりがあった為、池の畔のベンチで暫し休憩します。

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 本館の玄関左に泰山木の木があり、白くて大きな花を咲かせていました。

 

 会場である平成館の前に並ぶと、10人ずつ館内に誘導されました。

 いつも紙のチケットをもぎられる場所で、スマートフォンの画面上の入場用QRコードを読み取ってもらい、紙の半券を受け取って2階ヘ。

 コインロッカーに荷物を入れて展示室に進みます。入場前の誘導係員の説明では

「順路はありません。

空いている場所からご覧下さい」

と言われていましたが、通史的な展示構成が組まれており、章立て通りに観るのが最善と予想がつきました。

 

■展示構成

 展示室に入って早々に、本展では安土桃山時代辺りから近現代までの着物を中心的に取り扱っているのだと示されます。

 

 ここで展示構成について記しますと。

 会場は平成館の大階段を上がって左側が第一会場、右側が第二会場と分かれています。

 第一会場に序章から第二章まで、第二会場に第三章から第五章までが割り振られていました。

 章立ては以下の通りです:

・序章

・第1章 モードの誕生

・第2章 京モード 江戸モード

・第3章 男の美学

・第4章 モダニズム着物

・第5章 KIMONOの現在

 

 以下、各章の展示で印象に残った事などをお伝えできればと思いますが、1点注意事項があります。

 それは展示品の多くが会期末の8/23までの間に入れ替わる予定であること。

 本稿で言及する展示品も実際に観に行った際にはご覧頂けない可能性があります。特定の展示品目当てに観覧に出かけるご予定の方は、展示期間にくれぐれもご注意ください。

 

■序章

 序章はごく短く、前史的な位置づけに当たる鎌倉時代室町時代の衣類が数点ほど。

 序章の要点は、

「もとは下着であった“小袖”が次第に独立して着られるようになり、今日の着物の原型となった」

ということのようでした。

 

■第1章

 短い序章の展示スペースを通り過ぎると、安土桃山時代の小袖が広々とした展示室に並んでいました。

 安土桃山時代の文化は、とにかく豪華絢爛な色彩感覚に特徴があり、衣類にもその傾向は顕著です。

 日本刺繍でびっしりと地を埋め尽くした着物もいくつかあり、糸の厚みに圧倒されました。

 光沢のある細い絹糸で刺す日本刺繍は、着物に施されていると本当に見栄えがします。

 一角には、淀殿豊臣秀吉の側室の一人。お市の方の娘)のものと推定される小袖の断片が、近年の複製品とともに出品されていました!

 その隣には京都の高台寺に伝世する北政所豊臣秀吉正室)の着物も並んでおり、これもまた目を瞠る代物でした。

 当時の着物を描いた障壁画として、同時代の『洛中洛外図屏風』も出品されていましたが、風俗図としてもなかなか面白いものでした。

 

 続いて江戸時代の元和・寛永年間の着物が並びます。

 現世を『浮世(うきよ)』と呼び始めた享楽的な時代で、モチーフで地をびっしりと埋め尽くす柄入りの着物(『地無し』と呼ばれる)が、この時代の傾向として紹介されていました。

 この一角では、大和文華館所蔵の『婦女遊楽図屏風』が印象に残りました。こちらは状態の良い図屏風で、多数の遊女が様々な着物をまとって描かれていました。

 

■第2章 

 この章も江戸時代の着物で、1600年代の後半から江戸時代末期までに焦点を当てています。

 第1章までの着物と異なる点は、着物全体を1つの"画面"ととらえてデザインする傾向が顕著なことです。

 また、染めたり描いたり刺繍したりといった各種の技法や、その併用の仕方が洗練されてきたのが、展示物を通して実感できました。

 江戸幕府は質素倹約を旨とし、時に贅沢を取り締まったり制限をつけたりします(例えば、着物全体に鹿の子絞りを施すことは、ある時期に禁止となりました)。

 こうした倹約令が出れば、呉服屋は取り締まりを避けながら顧客の心を摑む商品を追求せざるを得ません。結果として、着物の流行の変遷や技法の発展が促された一面はあり、『禁令は技術革新の継母である』と認識を新たにしました。

 

 この第2章は、本展の中でも最も見応えがある部分だと思います。

 尾形光琳が絵を描いた着物(通称"冬木小袖")や、あの有名な『見返り美人図』も展示されていました。

 名のある着物でなくとも、偏額やら冊子といった意外なモチーフが見つかったり、目新しい配色が見られたりと、様々な発見や感動がありました🎶。

 

 ここまで観たところで第一会場は終わりです。中央階段の近くにある休憩スペースで5分程座って休みました。

 ちなみに、感染防止の為なのか、展示室内には椅子もベンチも見当たりませんでした。

 

■第3章

 第2章が殆ど女性用の着物であったのを補おうというのか、第3章は男物に焦点が当たっていました。

 冒頭、三英傑(※ホトトギスの天下人3人のこと)の着物が登場します。

 風雅の視線は、織田信長所用の陣羽織に吸い寄せられました。

 この陣羽織は独特のデザインでした。

 上半身に当たる部分が山鳥の羽根で覆われているばかりか、その黒い羽根と白い羽根で蝶の模様を表しているのです。

 使われた羽根が山鳥何羽分に相当するのか気になりましたが、追究しないほうが平穏に過ごせるかもしれません…^_^;。

 

■第4章

 第4章では近代の着物が並びます。

 修辞ではなく、文字通り列を成すような配置で、様々な着物を纏ったマネキンが並んでいるのです。

 モダニズム着物の行列を目の当たりにしてボルテージが上がる見学者も少なからず見られました。

「江戸時代の着物のほうが見応えのある展示品が多かったな……」

と、個人的にはむしろ冷めたのですが、母は知り合いの方が着ていたのと似た着物を見つけて楽しそうに観ていました。

 

 ただ、普段絵画や漫画などの資料でしか見られない明治・大正・昭和初期の着物の実物をまとめて観ることが出来たのは、小さくない収穫でした。 

 

■第5章

 最後の章では、現代の創作家による"作品"としての着物が展示されていました。

 辻が花の復元を目指した久保田一竹の『光響』、岡本太郎デザインの着物、YOSHIKIによる着物や着物風ドレス……。

 弧を描く仕切り板に並べて掛けられた『光響』は、絞りなどの技法を効かせた淡い色の着物の連作で、横並びにすると1枚の風景画になるように制作されていました。

 対して、一着で燦然たる存在感を見せつけていたのが岡本太郎デザインの着物です。

 鮮やかな原色使いでしたが、岡本太郎の傑作に見られるおどろおどろしさや土着風味華なりを潜め、着用に堪えるようにデザインされたのだと感じました。

 

 この章に展示された個性的な着物を横目に

「こういう目立つ着物は一度着ていくと覚えられてしまうから、難しいのよね…」

と、母が言いました。

 洋服に比べて値が張る為、消費者目線だとあまり食指が動かないようです(笑)。

 私自身、どの着物に対しても

「どうしてもこの着物を着てみたい!」

とは感じませんでした。

 当たり前のように着物を着ていた時代には、銘仙のように個性的なデザインでも売れる余地があったのでしょうが、洋装が標準となった現在、斬新なデザインの着物は大衆の支持を得にくいのかもしれません。

「着物が、"日本の伝統"というものの"生ける化石"と化す日は遠くないのかもしれない」

美的には感興をそそられる現代の着物群を前にしてそんなことを感じながら、私は長い観覧を終えて展示室を出ました。

 

ミュージアムショップとイベントスペース

 観覧終了後、物販コーナーで本展の図録を買い求めました。

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 図録は、ずっしりと重い大型本です。

 一般的な展覧会の図録よりも重いので本展を観て図録を買う可能性がある方は、帆布など厚手の生地のエコバッグを持参することをお勧めします。

 

 階下に降りると、左右にイベントスペースがありました。

 尾形光琳の『冬木小袖』修復プロジェクトとして募金を募っており、冬木小袖を纏った初音ミクの大型パネルが設置されています。

 通路を挟んだ反対側には、『冬木小袖』の本格的でない複製品がマネキンに着せられて展示されていました☟。 

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 もう1枚別の着物の複製もあります。 

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 展示室内にある原品のほうは衣桁に掛けてあるので、複製とはいえ、着せかけた姿を見られたのは収穫でした(^^)。

 

■退館

 一通りの見学が終わると2時近くになっていました。

 博物館から上野公園を南進し、精養軒で遅いランチを摂りました。

 修学旅行生の声が聞こえない上野公園は、いつになく静かでした。

 

 昼食後に西洋美術館の常設展にハシゴする計画もあったのですが、集中力が回復しきらなかった為、諦めて大人しく帰途に就きました。

 

■終わりに

 以上、KIMONO展観覧の顛末をお伝えしてきました。

 今回は緊急事態宣言解除後初めてのミュージアム見学で、防疫の観点で安全な観覧が出来るかも気にしていました。

 その点を補足すると、東博のKIMONO展ではまず密接は避けられません💦。

 平成館の展示室は、美術館・博物館の展示空間としてはかなり広い部類に属すかと思いますが、それでも見学者が展示物の前に集まる以上、望ましい距離を取り合って観覧するのは難しそうです。

 コロナ禍の深刻な影響と言えばもう1点、展示予定だったアメリカのメトロポリタン美術館ボストン美術館の収蔵品が、展示中止になっていました(泣)。

 

 しかし、各種の悪条件を考慮に入れてもKIMONO展はオススメの展覧会です。

 連日都内の新型コロナ感染者数が3桁を数えている状況では無邪気に勧められませんが、展示自体の評価としては

「100点満点中の84点位付けてもいい」

と、個人的には思いました。

 

 最後に、天平文様の近作:「紅牙撥鏤尺」を掲載することで、本稿の結びとさせてください。

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画材:油性色鉛筆、顔彩、ボールペン。

出典:藤野 千代『ぬりえ天平文様 うたかた』。

 

 ここまでご覧頂き、ありがとうございました。それでは、また〜(^^)/