塗り絵をめぐる冒険

いち美術ファンによる、「目指せ、塗り絵上手!」な試行錯誤あれこれ。まったり気ままな塗り絵ブログ。

【制作の記録】乙女と東京駅と木蓮の花。〜「花咲く未知へ」〜

 こんばんは〜、風雅です(^^)/。

 本記事では、先日完成した「花咲く未知へ」制作について記します。

 今回の制作は、全体構成が最大のポイントであった為、この点に焦点を搾りました。

 「あまり単純でない構図の線画を、どう塗り絵として組み立てていくか」という実践レポートとして読んで頂ければ嬉しいです。

 

 まずは完成形をご覧下さい☟。

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画材:油性色鉛筆、ボールペン、ドローイングペン。

出典:加藤 美紀『大人の塗り絵プレミアム 着物姿の乙女たち』(2020年、河出書房新社)。

 見ての通り、木蓮の咲く中、着物姿の乙女が東京駅を背に佇む姿を描いた図です。

 画面左上端の天体は皆既日蝕の瞬間の太陽で、原画手本にはなく、自分で描き込みました。夜景のように空が暗い色をしていますけれども、昼間の情景として塗りました。

 

■全力で塗ると無惨になる線画

 制作に着手する前に、まずは線画をじっくりと見渡しました。

 

 この線画の中心的なモチーフは、手前から、木蓮、乙女、東京駅の3種類です。その三者がそのまま、構図の上では前景、中景、後景を形成しています。

 最も中心的な存在が乙女だということは、画面のほぼ中央にいる事実からも自然と伝わってきます。

 人物の背後に建物が描かれているのはさほど珍しくもないこととしても、手前に幾つもの木蓮の花が大きく描かれ、"何もない部分"が殆どない構図にはうろたえました💦。

「全力で塗ると何もかもが目立ち過ぎ、乙女が霞んで崩壊する…(゚A゚;)ゴクリ」

との予感がしたのです。

 そんな悲しい出来上がりを回避すべく、配色の構想を練ることにしました。

 ポイントは、奥行き感とモチーフ相互の距離感を確保すること。

 同時に、自分の好みとして綺麗な色で塗りたいという希望も外せません。

 

■配色の構想

 最初に駅舎を寒色にしようと考えました。

 配色本のコラムで学んだのですが、寒色は本質的に"沈む色"だと言います。同じ大きさをした暖色と寒色の図形を等距離に置いた場合、寒色のほうが小さく、遠く感じられるということです。

 駅舎をより遠くにあるように見せたくての寒色で、東京駅に纏わせてみたい色として、青系統にすると決めました。

 

 次に、皆既日蝕の設定を考えました。

 ドラマチックな情景を作ること、駅舎が青く見えても自然な理由を付けること、奥行き感を出すことの3点が狙いでした。

 奥行き感について補足すると、鑑賞者の視点を画面の奥に引き込む存在があれば、より奥行き感を感じやすくなると考えています。

 私自身が閉所恐怖症の傾向があり、視線の抜け所がない絵に息苦しさを覚えるので、奥行き感は重要なポイントでした^_^;。

 

 日蝕の設定は、コロナへの連想を喚起しました。

 日蝕の際、太陽の外縁にはコロナというガスの層を見ることができます。

 太陽のコロナもウィルスのコロナも語源がラテン語のcorona(意味:「花冠」、「冠」)にあることから、皆既日蝕がコロナウィルスのイメージと強く結びつきました。

 同時に、日常でないような日常を送る昨今の時勢は、常の昼間よりずっと暗い皆既日蝕の昼間のようなものに思われてきます。

 この辺りで、「象徴的な意味合いをもたせた作品として描こう」と考えました。

 コロナウィルスゆえに薄闇のような日々でも、人間は希望や慰めを心にかけながら、先へ進もうとしているーー2020年の私たちはそうした状態なのだという認識を、この画面に描き留めたいと思ったのです。

 これは自己満足レベルの意義づけに過ぎませんが、こういう動機があると作品に愛着が湧くので、投げ出したくなった時に抑止効果があります(笑)。

 

 モチーフに意味をもたせると俄然連想が進み、暗い真昼にほんのり光る木蓮の花は、希望や慰めを表せるのではないかと思えてきました。

 となれば、木蓮の花びらの色は、灯りを連想させる白か黄色の2択になります。

 この2色を比較検討すると、黄色のほうが背景の青とより強い対照効果が望めること、木蓮の色としてあまり一般的でなく新鮮味があることから、黄色に軍配が上がりました。

 

 木蓮と乙女はくっきりと区別を付けたかった為、乙女の着物に赤紫色を使うことを決めました。

 黄色と赤紫色ならば色相が違い過ぎて、木蓮と乙女が同化して見えはするまい、との魂胆です。

 模様が大きいのでそこに赤紫色を使い、地色はソーダ色にしました。

 赤紫色とソーダ色の組み合わせが好きで選んでいますが、理屈の上からも

ソーダ色は木蓮と同化しないからOK」

と裏付けは取っています。

 

■各部の塗り方

 前章の通りざっと配色を決めたところで、色鉛筆で塗り始めました。

 

 後景にあたる駅舎や蒸気機関車、空については、筆跡が目立たないよう、出来る限り滑らかにサラサラと塗ることを心がけました。

 と言っても私は筆圧が強く、サラサラと塗り始めても気が付くと力が入っている事もしばしば…💦。

 なお、大人の塗り絵シリーズを塗る場合、消しゴムでもスッキリと消せない紙である為、大幅な間違いや不自然なスジが入らない限り、原則的に塗り直しはしません…^_^;。

 

 乙女は、肌は滑らかにサラサラと塗りましたが、髪の毛と着物は質量感を意識して濃く塗り重ねました。

 着物の薔薇模様は、2色芯のデュアルカラー色鉛筆の紫色に、単色の赤紫色を部分的に重ねる形で描いています。

「モダンな雰囲気に塗れたかも〜♫」

と、一人悦に入りました(*^^*)。

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 また、帯の中心にある模様はデュアルカラー色鉛筆を数本使って塗ったものです。

 原画手本では恐らく蓮の花かと思われますが、拙作ではモダンアート風の謎模様になりました(^o^;。

 着色が終わった後で、乙女の輪郭を際立たせる為に、0.1㎜幅の黒いドローイングペンで輪郭線をなぞりました

 

 木蓮は、乙女より手前に位置するものの、主役になってはならないモチーフです。

 花も枝も写実性にこだわらず、やや平べったく塗りました。

 念頭にあったのは、花ごしに人物を撮った写真で、ピントが人物に当たっている為に、近くにあるのにぼけて写る花です。

 そういった写真では、カメラから近距離のモチーフが、被写体を飾る一種のフレームとして活用されている訳です。

 この線画の木蓮も、そのように位置づけるのが適当な気がしました。

 なお、原画手本でも線画でも木蓮の輪郭は太く描かれています。

 拙作ではこの木蓮の輪郭線を0.3㎜幅の黒いドローイングペンでなぞりました。

 

■終わりに

 今回の配色構想は、感覚や好みで使用する色の候補を挙げ、理屈も参考にして取捨選択するという方法によるものでした。

 自分で見る限り画面に息苦しさを感じないことから、この構成の面では、それなりにうまくいった気がしました。

 

 着色する前に作品全体の配色を決めた場合、どうしても"見込み違い"をして塗り始めてから大きく行き詰まる危険性があります。

 配色の段階で感覚と理屈を併用することで、大きな"見込み違い"が回避できるのではないか。今回の経験からそのような手応えを感じました。

 

 以上「花咲く未知へ」制作のポイントを述べて参りました。

 ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

 それでは、また〜(^^)/

 

【追記】

 資料画像の整理が追い付かず、文字だらけでの投稿となってすみません💦。

 画材や使用色の情報は、順次本文に加筆する形で載せる予定ですm(_ _;)m