塗り絵をめぐる冒険

いち美術ファンによる、「目指せ、塗り絵上手!」な試行錯誤あれこれ。まったり気ままな塗り絵ブログ。

7月最後の大物。

 こんばんは。風雅です。

 

 昨夜遅く、"7月最後の大物"を攻略し終わりま したヽ(^o^)丿。

 パラレル塗り絵(※2人以上で同時に同じ線画やテーマを塗る試み)として非公開で進めていた為、唐突な登場となりますが、まずは完成作品をご覧下さい☟。

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画材:水彩色鉛筆、油性色鉛筆、顔彩、ドローイングペン(油性)。
題名:「スラブ叙事詩 ロシア農奴解放令の日」。

出典:『ミュシャ ぬりえファンタジー』(小学館)☟。

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 壮大な題名は、線画の原画が同名の名画であるせいで、風雅の誇大妄想の表れではありません(笑)。

 原画の作者は、皆様ご存じのミュシャ

 彼は、故国チェコに帰ってからスラブ人(※東欧、ロシアなどに居住するスラブ系諸民族の総称)の神話と歴史をテーマに連作の壁画:『スラブ叙事詩』を制作しました。

 そのうちの1点が『ロシア農奴解放令の日』で、題名の通り、ロシア帝国農奴解放令が発令された日のモスクワを描いています。広場の奥に聳える巨大な建造物は、言わずと知れた聖ワシリィ聖堂です。

 ちなみに、ロシアの農奴解放は1861年

 遠い過去の歴史のように思われますが、1860年に生まれ、1914年にこの作品を発表したミュシャにとっては"現代史"に属する出来事であったでしょう。

 …前置きが長くてすみません💦。

 ここで何を伝えたいかと言えば、ミュシャの塗り絵といっても、美女と花と装飾要素に満ちた瀟洒な作品ではなく、骨太で壮大な壁画から起こされた線画だという事実です。

 アートセラピーとしての塗り絵には、あまり向かないテーマかもしれません(笑)。

 

 この歴史画を敢えて塗り絵にした編集者の意図はよく分かりません。

 しかし線画の出来は良くないものでした。

 建物や群衆など、原画にある多数の線を滑らかに写し取ってあれば塗り手が着色に専念しやすくなるのですが、必要な描線をかなり適当に省いてあるのです(泣)。

「構図が大まかに分かれば文句ないよね?」

と言わんばかりの大雑把なありようは、線画をおこす人が原稿料の安さに辟易して途中で投げ出したのかと邪推をかき立てられる程でした(※完全な妄想です)。

 ミュシャの作品は構図が良い為、本来ならば白黒の線画だけでも絵としての魅力が感じられる筈ですが、やっつけ仕事の線画だとその点が曇ってしまいます。

 開始前に線画を眺めてポイントをざっと決めておく派の風雅は、着色を始める手前の構想段階から難航しました。

 

 線画だけを見詰めていると気持ちが暗くなる。となれば、参照するべきは原画です。

 幸いなことに、手持ちのミュシャ展図録に見開きでこの作品が載っていました。

 図録を開くと、展覧会でこの壁画を観た時の感想が脳裏に甦ってきました。それは、

「とにかく重い。重苦しい絵」

というものです。

 高さが6Mもあるグレーを基調とした壁画を間近で観て、押し潰されるような圧迫感を覚えたというのが本当のところでした。

 その上、解放の知らせを聴いた民衆が喜色満面でいればまだ救いもあったのでしょうが、群衆の間には何が起きたのかよく分かっていない空気が漂っています。

 カタルシスの乏しい作品として、『スラブ叙事詩』の中でもあまり好きでないほうに分類していました。

 原画にそういうイメージがあった為、

「自分で塗るなら水彩画ふうに見せたい」

と思ったのも自然な成り行きだったかと思います。

 また、原画のグレーは暖色系グレーでしたが、雪の残る冷たい気候を意識して、青から寒色系グレーを基調としました。

 画材は、水彩色鉛筆で空、大聖堂、地面などを下塗りしたのち、一部に油性色鉛筆で重ね塗りして整えました。

 また、輪郭線がところどころ曖昧なので、建物や群衆の一部など輪郭をくっきり伝えたい箇所は油性のドローイングペンでなぞりました。

 

 制作中特に難しく感じたのは、"群衆"の着色です。

 考えてみると、大人の塗り絵で"群衆"というモチーフを塗るのは初めてでした。

 ミュシャの原画では遠くの人物まで細かく描かれますが、壁画の特色としてやや立体感を削いだ描き方で表されます。

 一方、塗り絵用の線画では個々の人物がかなり曖昧になり、奥の群衆など頭の輪郭線と足の位置を示す線が不正確に引いてある状態です。

ミュシャのように描き込むのは実現可不能、それでも線画の線だけに頼って何となく塗って済ませたくはない」

 そんな考えから、群衆のうち、手前に他の人物が少なく、様子が分かりやすい人物だけを選び、ドローイングペンで輪郭をなぞっていきました。

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 これは『手前に群衆がいるから奥にも群衆がいると想像しやすくなる』という作戦でした。

 更に補強策として、遠くにいる少数の人物の帽子やスカート、マフラーといった一部分だけ、濃く暗い色を何箇所か配することをしました。

 というのも、群衆を目の当たりにした時、遠目で印象に残るのは目立つ色の服や小物を身に着けた人ではないでしょうか。1人を

「あの遠い位置にも人がいる…」

と人間として認識すると、その周りにいる"似たような背格好のもう少し目立たない何か"も人間だと識別しやすくなります。

 このような"群衆かさ増し作戦"で塗り進め、時々離れた位置から見てみて、何となく形になった気がした段階で「群衆は完成〜♫」と判断しました。

 なお、個人的な感覚ですが、不慣れなモチーフを塩梅しながら塗り進めていると、盛大に気力を吸い取られます💦。時折

「群衆は敵だ!危険過ぎる……!」  

と独裁者のような科白が脳裏をよぎりました(^o^;。

 

 そんな一幕はともかく、七月が残り15分で終わる頃になってようやく「スラブ叙事詩 ロシア農奴解放令の日」の塗り絵は完成に至りました。

 元々原画に強い思い入れがあった訳ではありませんが、こうして向き合う機会を経た今、もう一度あの壁画を観てみたいと心から感じます。

 悪疫の流行が落ち着いたら、またミュシャの壁画が来日する機会も訪れるでしょうか。

 

 さて、七月最後の大物を倒していい気分なので、上半期に塗っておいたものですが、ジョハンナ・バスフォード女史の"Secret Garden"ポストカード版より1点披露させて下さい。

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画材:油性色鉛筆、POSCA。

 黒以外のPOSCAで無地背景を塗ると、かなりくっきり色が出ますね。

 花々を背景に負けないようにくっきりと塗ろうとした結果、かなり明るい画面になりました♫。

 POSCAの隠蔽力を活用して花びらの一部が欠けた花も作り出すことができ、楽しかったです(^^)。

 

 気が付けば、かなり紙幅を費やしてしまいました。

 ここまでお付き合い頂き、ありがとうございました。

 8月もまたよろしくお願いします♫